研究概要 |
目的:体性神経のうち大径有髄線維の障害は神経伝導検査を用いて評価することが可能であるが,温度覚などを支配する細い線維の障害を評価する方法は少ない.今回,物質間の熱の移動の指標である熱流(heat flux)を用いて皮膚の温度感覚閾値を測定し,糖尿病性神経障害の病態について検討した. 対象:糖尿病患者20名(平均年齢58.0±11.4歳)である.対照として健常者20名(平均年齢49.0±11.7歳)についても検討した. 方法:熱流センサーを埋め込んだ温度変化可能なペルチェ素子を上肢では母指球,下肢では足背外側に装着し,0.2℃/sのスピードで温度を上昇あるいは低下させ,温感あるいは冷感を自覚するまでの熱流値を積分し,温覚閾値として温覚総熱流値(WHF:J/m^2),冷覚閾値として冷覚総熱流値(CHF:J/m^2)として算出した. 結果:上肢では,健常者の温覚閾値の平均は40J/m^2,冷覚閾値は59J/m^2であった,糖尿病患者では,温覚閾値は104J/m^2,冷覚閾値は150J/m^2でそれぞれ健常者に比べ有意に大きかった。下肢に関しては,健常者の温覚閾値の平均は185J/m^2,冷覚閾値は141J/m^2であった.一方、糖尿病患者では,温覚閾値は320J/m^2,冷覚閾値は299J/m^2でそれぞれ健常者に比べ有意に大きかった.糖尿病患者における神経伝導検査との関連では,上肢では正中神経の運動神経伝導速度および感覚神経伝導速度と温冷覚閾値は関連がなかった.しかし,運動および感覚神経ともに活動電位が小さい群で温冷覚閾値の障害が強かった.下肢に関しては、後頸骨神経の伝導検査との関連はなかったが,腓腹神経の活動電位が導出できない症例で温冷覚閾値の著名な高値を認めた. 結論:1)熱流による皮膚温度感覚閾値検査は細い線維である無髄線維や小経有髄線維の機能評価が可能である.2)糖尿病患者では健常者に比較して温冷覚閾値が障害されていた.3)糖尿病患者性神経障害における温冷覚閾値の障害は,神経伝導検査を用いた電気生理学的検索では,脱髄性の変化よりも軸索の障害が強く関与していることが推測された.
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