自己抗体が関与する自己免疫疾患では、抗体がその標的抗原に結合することにより、抗原蛋白の本来の生物学的機能を妨げ、その結果自己免疫疾患の発症につながることがしばしば起こる。この機序が肺小細胞癌を伴う傍腫瘍性神経変性症にも該当するか否かを明らかにすることを目的として、本疾患に関連し、3個のRNA認識領域を有する蛋白抗原PLE21について、各RNA認識領域を含むdeletion mutantを作製し、それぞれの蛋白のc-myc mRNAとの結合部位とこの疾患に特異的に出現する抗神経細胞抗体の抗原認識部位について検討した。その結果、PLE21抗原のうち、RNA認識領域のいずれもが、抗体に認識されるものの、第1、第2RNA認識領域は、全ての抗体に認識され、major epitopeが存在しているものと考えられた。このうち、アミノ酸残基161-172と29-38にエピトープが存在していることが明らかになった。一方、RNAの結合には、やはり、第1RNA認識領域と第2RNA認識領域が必要であり、これら二つのの領域が連結した形で存在することがc-mycの結合に必要十分である。しかしながら、この連続した領域のうち、抗体の認識に直接関わっていないアミノ酸残基187-194がRNAの結合に必要ではあるが、抗体のエピトープである161-172とは結合しないことが明らかになった。さらに、抗体のもう一つのエピトープである29-38は、RNAの結合に不可欠である。抗神経細胞抗体の抗原の結合が、抗原のRNAの結合を阻害し得るかについて、supershift gel mobility assayにより検討した結果、抗体の結合はPLE21抗原のRNAの結合を妨げないことが明らかになった。これらの結果は、抗神経細胞抗体とRNAのPLE21抗原における結合は異なっており、抗体の結合がPLE21抗原蛋白の機能には影響を与えない可能性を示唆している。
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