肺小細胞癌を伴い、広汎な神経細胞の核に対する自己抗体が出現する傍腫瘍性神経症候群の発症機序を解明する目的で、この症候群の関連する神経自己抗原である神経特異的ELAV様蛋白について、RNA結合の機能について検討した。我々がヒト海馬よりcDNAクローニングした神経特異的ELAV様蛋白HuC/ple21のdeletionmutant蛋白と、神経細胞の生存に重要と考えられているmRNAの3'非翻訳配列中に存在するAU-rich element(ARE)を用いてその結合をRNA gel shift assayによりmRNAの結合部位と抗神経細胞抗体の抗原認識部位について検討した。前癌遺伝子c-myc mRNAのAREを用いて解析した結果、high stringentな条件下でも強い結合が確認され、HuC/ple21のアミノ酸残基29-38と186-194がRNA結合に必要であることを明らかした。抗神経細胞抗体の抗原認識部位について検討した結果、HuC/ple21のRNA認識領域のミノ酸残基161-172と29-38にエピトープが存在することが明らかになった。抗神経細胞抗体の蛋白の結合が、蛋白のRNA結合を阻害し得るかについて検討した結果、抗体とRNAのPle21抗原における結合は異なり、抗体の結合はPLE21抗原のRNAの結合を妨げず、抗神抗体の結合がPLE21抗原蛋白の機能には影響を与えない可能性が示唆された。また、HuC/ple21の3つのRNA認識領域のうち、RNAとの結合には第1RNA認識領域の全てのbeta sheet領域、第1alpha helix領域を構成するアミノ酸のうちの2個のアミノ酸と第2RNA認識領域の第4beta sheet領域を構成する8個のアミノ酸がRNAの結合に必須であることを明らかにした。さらには、神経特異的ELAV様蛋白HuC/ple21は、多くの中枢神経自己免疫疾患や感染性疾患において重要な役割を果たしていると考えられ、神経細胞からも産生されているtumor necrosis factor(TNF)-αのmRNA3'非翻訳配列AREと結合することを明らかにした。この結果は、神経特異的ELAV様蛋白が神経細胞においてTNF-αの産生を制御している可能性を示唆し、傍腫瘍性神経症候群の神経抗原蛋白は神経細胞の生存に重要な役割を果たしていると考えられた。
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