高齢ハンセン病患者において痴呆発症頻度が低いことが示されている。ハンセン病患者の痴呆発症頻度を減少させる因子を明らかにすることで、その因子によるアルツハイマー病の予防・治療への応用が期待できる。そこで、ハンセン病患者において痴呆発症を制御する機構を解析した。その結果、ベータ・アミロイドの脳への沈着が、対照に比べ低いという病理学的所見を得た。ところが、タウタンパクは痴呆と無関係に多数沈着していた。アルツハイマー病発症の危険因子であるアポリポプロテインEε4遺伝子の頻度が、痴呆が無いハンセン病患者において高いことを発見した。α1アンチキモトリプシンならびにプレセニリン1遺伝子頻度は、ハンセン病患者の痴呆発症の制御に、何ら関わらないことを明らかにした。他の要因として、ハンセン病治療薬として用いられるダプソンが中枢神経へ移行、その抗炎症作用による脳代謝の変化が考えられる。しかしながら、患者が長期にわたり服用している治療薬は、ハンセン病患者の痴呆発症頻度に何ら影響を与えないことを我々は突き止めた。同時にハンセン病治療薬は、ベータ・アミロイドによる神経細胞毒性を減弱する効果が無いことも、細胞培養系を用いて明らかにした。ハンセン病患者の痴呆発症を制御するもう一つの要因として、ハンセン病の原因菌であるらい菌の中枢神経感染が挙げられる。これまで、ハンセン病患者においてらい菌の中枢神経への移行は確認されていなかったが、我々は、感染マウス大脳において、らい菌遺伝子の存在を、遺伝子増幅法により証明した。
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