研究概要 |
高齢ハンセン病患者で痴呆発症頻度が低いという疫学的報告を受けて、研究協力者らは神経病理学的に老人斑、神経細胞死、神経原線維変化の動向を明らかにし、我々はアルツハイマー病発症の危険因子であるアポリポプロテインEε4遺伝子の頻度が、痴呆が無いハンセン病患者において高いことを発見した。これらの結果よりハンセン病患者には独自の脳の老年性変化が存在すると結論し、痴呆発症を制御している未知のハンセン病由来因子の解析を行った。これまでに、患者が長期にわたり服用しているダプソン等の治療薬は、ハンセン病患者の痴呆発症頻度に何ら影響を与えないことを我々は突き止めた。同時にハンセン病治療薬は、べータ・アミロイドによる神経細胞毒性を減弱する効果が無いことも、細胞培養系を用いて明らかにした。また、apo E intron lenhancer element遺伝子頻度は、ハンセン病患者の痴呆発症制御に何ら関わらない一方、apo E gene transcriptional regulatory region(apoE-491A/T,-219G/T)遺伝子多型は対照群との差を認め、apoEの転写調節領域の多型により生ずる転写活性の個体差がハンセン病患者の痴呆発症の制御に関与している可能性を見いだした。本年度は、以下の成果を得た。 1、ハンセンの原因菌であるMycobacterium leprae(M.leprae)はグリア細胞に特異的に感染する。感染グリア細胞由来因子とハンセン病の痴呆発症を制御の関連を検討するにあたり、感染培養シュワン細胞においてサイトカイン発現動態の解析を行った。 2、M.leprae感染グリア細胞(シュワン細胞、オリゴデンドロサイト)由来因子、またM.leprae特異的膜脂質成分による作用が、アミロイド蛋白による神経細胞のアポトーシス、細胞毒性を減弱する効果を見いだした(継続中)。
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