こはく酸脱水素酵素活性が骨格筋において著しく低下した4家系5症例を経験し、分子遺伝学的に検討した。こはく酸脱水素酵素は、電子伝達系酵素複合体II(complexII)の部分活性であり、その活性中心はフラボプロテイン(Fp)に存在する。このFpを含む4つのサブユニットのcDNAを5症例すべてについて解析した。その結果、中枢神経症状を伴わないミオパチーを呈する2歳の男児のFp-cDNA内に、2種類の変異を同定した。ひとつは、C1181Tで386番のThrがIleに変化し、ひとつは1756番のGが1塩基欠失することで589番のArg以降が変わり、54個下流のアミノ酸で終始する。これらの変異は、ゲノムDNA上でも確認され、またそれぞれが両親から由来することが確認できた。またFp遺伝子のゲノムは従来から染色体上の2カ所にマップされることが知られており、われわれのPCRを用いた検索でも同様な類似したアレルの存在することが示された。さらに、蛔虫のFp抗体を用いた研究で骨格筋の白筋・赤筋が染め分けられることが判明し、Fpサブユニットのアイソフォームの存在が強く示唆された。一方、Fp遺伝子に変異を有しない症例について、さらにcomplex IIの低下をきたすと予想されるフリードライヒ失調症の責任遺伝子frataxinとそのノックアウトマウスで著しいこはく酸脱水素酵素活性低下が示されたsuperoxide dismutase 2の遺伝子について検討を加えたが、結果は陰性であった。今後はFpアイソフォームの確認と、こはく酸脱水素酵素欠損で引き起こされる細胞生物学的な影響を研究する必要がある。
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