家族性脳梗塞性痴呆症CADASIL(cerebral autosomal dominant arteriopathy with subcortical infarcts and leukoencephalopathy)は臨床的には中年期以降に発症し、反復性卒中発作、片頭痛、仮性球麻痺、感情障害、皮質下痴呆を呈し、病理学的に大脳白質の多発性脳梗塞と好酸性・PAS陽性顆粒沈着を特徴とする細・小動脈中膜変性を認める常染色体優生遺伝の脳血管障害性痴呆症である。さらに、本症は原因遺伝子が発見された唯一の症例である。本研究ではこのCADASIL原因遺伝子Notch3に焦点をあて、CADASIL様症状を呈する患者の遺伝子スクリーニングを行った。スクリーニングの対象者は次のように選別した。家族性痴呆患者の中から先ず優性遺伝様式を示す家系でMRI画像診断により白質病変を認めた患者を選び、さらに上記CADASIL臨床症状のうち2種類以上を呈する場合をCADASIL様患者とした。変異解析はNotch3遺伝子エクソンをPCR増幅した後、SSCP法および塩基配列の検索により行った。調べた患者12人のうち3人に欧米家系と同じ変異-日本人2患者にArg133Cysが、イラン人患者にArg90Cysが見いだされ、また日本人1患者にArg213Lys新しい変異が認められた。この結果は欧米患者以外で発見された初めての例であり、Notch3が人種を越えて疾患原因となっていることを証明したものである。一方、劣性遺伝のCARASILについてNotch3遺伝子の解析を行ったが、変異は認められなかった。従って、CARASILの場合は異なる遺伝子異常によることが判明した。
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