壁せん断応力が小さく、その時間的変動性が大なる解剖部位は流体力学的に動脈硬化の危険性が高いという事実は実験的モデルの知見より証明されている。しかし、臨床的に重要なこの動脈硬化規定因子をヒトの生体内において計測することは困難であった。MR velocity mappingが血管壁近傍の血流速度勾配を定量的かつ三次元的に評価することが可能であるという特性を生かし、血管壁近傍における血流速度勾配(dV/dy:壁せん断速度、y:血管壁垂線方向の距離)をベクトル解析し、本年度は以下の知見を新たに得た。 1.腹部大動脈-左右総腸骨動脈分岐部における壁せん断速度ベクトル解析より、分岐部外側壁は内側壁に比し、壁せん断速度は小さくかつ時間的変動性は大く、壁せん断速度による流体力学的動脈硬化危険因子は分岐部外側壁でより強い傾向が示唆された(第65回日本循環器学会学術総会、平成13年3月26日)。 2.左右腸骨分岐角度と分岐部外側壁における壁せん断速度との関係は、分岐角度が小なるほど小さく、その時間変動性は大なることが判明した(第65回日本循環器学会学術総会、平成13年3月26日)。 MR velocity mappingによる非侵襲的壁せん断速度のベクトル解析は、流体力学的動脈硬化危険因子が強く作用する解剖部位および解剖形態の同定に有用であった。
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