特発性心筋症の原因遺伝子としていくつかの収縮関連遺伝子の変異が報告され、これらの変異遺伝子により心筋収縮不全が生じることが明らかにされてきたが、本疾患におけるきわめて多彩な病態について、これらの遺伝子異常だけでは十分には説明されない。また最近、心筋症の発症にウイルス感染が関与しているとの知見が明らかにされており、その病態発症機構におけるサイトカインの役割が注目されている。我々はこれまでに、IL-6とIL-6受容体のダブルトランスジェニックマウスにおける心筋肥大を報告し、サイトカインが直接心筋細胞の分化・増殖に関与している可能性を初めて明らかにした。 本研究では、(1)心筋細胞においてgp130の活性化に引き続き、Jak-STAT、MAPキナーゼ、PI3キナーゼ系が活性化され肥大シグナルを伝達すること、(2)STATを介したbcl-xLの発現増強や、PI3キナーゼを介したAktの活性化が、LIFによる心筋細胞保護作用の一部を担っていることを明らかにしてきた。次に、Jak-STAT系のなかでSTAT3に注目し、アデノウィルスベクターを用い心筋細胞へ導入し、gp130を介する遺伝子発現機構の検討を行った。 STAT3の高発現はLIFによる肥大作用を増強しdominant-negative STAT3の細胞導入は、これらを著しく抑制した。ここで検討したSTAT3を、α型ミオシン重鎖遺伝子プロモーターに結合し、心筋特異的に高発現させたトランスジェニックマウス(TG)を作製し、in vivoにおいてSTAT3の機能的役割を検討した。STAT3 TGの心臓においてβ-MHC、α-アクチンおよびANFmRNAの発現の増強が確認され、コントロールと比べ約15%の壁肥厚が観察された。さらに、doxorubicin投与による急性心不全死は、TGにおいて有意に抑制された。以上の結果より、さまざまなストレス状況下にこの系が活性化され、病態に深く関わっている可能性が示唆された。
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