研究概要 |
心不全における収縮、弛緩障害には、細胞内Ca2+動員異常が大きな要因としてあげられ、これにはSR機能変化(Ca2+取り込み、放出異常)が深く関与している。従来よりCa2+-ATPase蛋白量およびmRNA量の低下にともないCa2+取り込み機能異常を認めた報告は多いが、Ca2+放出機能に関しては、細胞内Ca2+トランジェントの研究より異常を示唆する報告は多いものの測定上の困難さから詳細な検討はされていない。平成9年度,我々は、ストップドフロー蛍光装置によりmsecの時間単位のSRのCa2+放出能を測定し心不全ではSRのCa取り込み能に加えてCa放出速度が著明に低下していることを明らかにした。従来より、心筋収縮に先行する細胞内Ca2+トランジェントは心収縮、拡張性に関わる重要な因子であり、Ca2+トランジェントの上行脚は主にSRからのリアノジン受容体を介するCa放出により規定されると考えられている。従って、今回示した心不全時のCa放出能の障害は心収縮性の低下に深く関与していると考えられる 平成10年度には,強心薬の心機能に及ぼす効果をSR機能の面から検討し、以下の重要な知見をえた。1)心不全では収縮予備能は低下しているが拡張予備能は保たれており、その原因として心不全時、SR Ca ATPaseのcAMPに対する感受性が増強していることが示唆された.2)PDE阻害薬のミルリノンはドプタミンに比し、SR Ca ATPaseのcAMPに対する感受性増強効果が強く,心不全時の拡張能改善に有効であることが示された。心不全の約30%は拡張不全によりもたらされるが、現時点では拡張能改善に特に有効である薬剤はない。今回の研究結果は拡張能改善薬の開発に重要な示唆を与えると考えられる。
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