研究概要 |
血小板由来成長因子(PDGF)は血管平滑筋細胞(VSMC)の強力な細胞増殖因子の1つであるが、PDGFの生理作用はその特異的な受容体を介して発現される。そこで、VSMCに発現し、動脈硬化巣や糖尿病性血管病変などで過剰に発現されるPDGF β-受容体の発現調節機構を遺伝子レベルで解析するために、ラット・ゲノムライブラリーより約12-kbのPDGF β-受容体遺伝子(PDGFβR)を単離し、約1.7-kbの5^1-上流域を含む断片について解析した。塩基配列を決定し、プライマー伸長法ならびにリボプロープ・マッピングによって、転写開始点を決定した結果、転写開始点は複数であり、その近傍にはTATAボックスやGCボックスを認めず、その代わりにCCAATボックス(-67〜-61)を認めた。その他に特徴的なシス・エレメントとしてAP-1,C/EBP,MRE,NFκBを認めた。次にルシフェラーゼ・アッセイを用い、VSMCにおける各種変異遺伝子のプロモーター活性を比較した結果、PDGFβRの基本的転写活性には、-67〜-61に存在するCCAATボックス(以下、C67)と、その上流に存在する-150〜-121(以下、R30)が必須な領域であることが示された。また、それぞれの領域に結合する因子をゲルシフトならびにスーパーシフト法で解析した結果、C6ηにはNF-Y(なかでもNFY-B)が結合し、また、R30にも特異的に結合する因子を同定した。これらのことから、VSMCにおけるPDGFβR遺伝子の基本的な転写活性は5^1-上流域に存在する2つの領域、C67とR30によって制御され、しかもそれぞれの領域に特異的に結合する転写因子の相互作用によって活性化されるものと考えられた。今後は、R30に結合する転写因子を明らかにするとともに、PDGFβRの基本的転写活性に必須のこれらの因子を制御することで病変部に過剰発現されるPDGFβR発現を抑制する方法を開発して行く予定である。
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