研究概要 |
【目的】VLDLとカイロミクロンにリパーゼが作用して生じるレムナントリポ蛋白(Remnant Lipoprotein, RLP)が、動脈硬化病変部の病態に重要な役割を有する内皮依存性血管拡張反応(Endothelium-dependent Relaxation, EDR)に与える作用をin vitroおよび臨床的に検討した。【方法】79例の器質的冠狭窄を有さない胸痛症候群患者を対象とし、冠動脈造影時に施行したアセチルコリンの冠動脈内直接注入による冠動脈径および左前下行枝血流量(フローワイヤー)の変化を計測し冠危険因子との関連性を多変量解析を用いて検討した。さらにRLPの作用機序を解明するために、摘出ウサギ胸部大動脈条片を用いたOrgan Chamber実験にて、RLPとインキュベーション後のEDKを測定した。RLPはヒト食後血漿よりアポB-100及びアポA-1に対する両モノクローナル抗体混合アフィニテイーゲルを分離した。【結果】アセチルコリンによる冠動脈拡張の低下は喫煙、血清コレステロール値、LDL-コレステロール値、年齢、RLP値と有意に相関したが、RLP値との相関性が最も高かった。(partial r=-.661, p<0.0001)。アセチルコリンによる冠血流量増加もRLP血と有意な負の相関関係を示した(partial r=-.634, p<0.0001)。Organ Chamber実験にて、RLPはアセチルコリンおよびサブスタンスPに対する内皮依存性拡張反応を抑制したが、この抑制反応は内皮細胞表面のアポ蛋白受容体およびプロテオグリカンを介する作用ではなくRLPに含まれる脂質分画によって惹起されることが判明した。VLDLは抑制作用を有しなかった。【考案】RLPは内皮細胞機能障害を惹起させるが、このことが高RLP血症を伴うIII型高脂血症、家族型複合型高脂血症その他の食後高脂血症における動脈硬化の発症・病態に関与している可能性が示唆された。
|