冠攣縮は日本人に多い疾患であり、多くの虚血性心疾患の病態に関与している。我々はこれまでに冠攣縮の病態に一酸化窒素(NO)が深くかかわっていることを示している。最近、さらに冠攣縮の遺伝的背景を探る目的で、血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子に注目し、その遺伝子変異の検索を始めた。eNOS遺伝子26個全てのエクソン並びに5′隣接領域を対象にPCR-SSCP法で検索した結果、エクソン7にGlu298Asp変異を、また5′隣接領域にT-786→C、A-922→GおよびT-1468→Gを見出した。またT-786→C、A-922→GおよびT-1468→Gはそれぞれがリンクして存在することも判明した。我々はこの遺伝子変異がそれぞれ冠攣縮に有意にかかわっていることをvolunteerを含めた多数例の症例を用いて確認している。これらの変異が単なる遺伝的マーカーであるのかそれともその変異自体がeNOSに機能異常を与えているのかをin vitroおよびin vivoの実験系で検討を続けている。現在、特に5′隣接領域についてその機能的変化が明らかとなっている。in vitroの機能解析をルシフェラーゼアッセイを用いて行った検討では、3つの点変異の内、T-786→Cが有意にルシフェラーゼ活性を低下させ、他のA-922→GおよびT-1468→Gは影響を及ぼさないことが判明した。さらに、in vivoの検討では遺伝子変異を持つ症例と野生型の症例では、その血中のNOの代謝産物であるnitrite/nitrateに差があることが明らかとなった。以上のことから少なくともT-786→C変異は、直接eNOSの転写に影響を与え、NOの合成を低下させて冠攣縮を引き起こし易い状況にしていると思われた。 今後、eNOS遺伝子変異の研究は、冠攣縮のみならず他の虚血性心疾患あるいはその類縁疾患の病態解明の一助になるものと期待される。
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