研究概要 |
循環器疾患の発症や増悪にストレスが関与することは過去の臨床研究,疫学研究で確認されているが、適当な動物モデルがないこと、生理学的手法に偏っていることなどから、ストレスの病態生理の理解は不十分である。我々はラットへのストレス負荷で、vasospastic anginaに相当する一過性の心電図変化が起こることを見い出した。このようなモデルを用いて、従来のストレス研究が明らかにしえなかった疑問点、ストレスに応答する細胞群、遺伝子群の解明を試みた。すなわち刺激後数分で新たに転写されるとともに、それ自身転写調節因子として働くimmediate early genes(IEGs)発現を指標に分子形態学的な検討を加えた。その結果、心理的ストレス負荷により、冠動脈平滑筋や左室内腔側の心筋などにIEGsが発現した、すなわちこれらの細胞群は反応したことを明らかにした。それに引き続き、Heat shock protein70やナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)遺伝子が発現が上昇することを見い出した。特にANPの誘導にはIEGsであるc-fosが関与することを示唆する所見を得た。これら一連の変化は、ストレスに対する心臓の適応現象と考えることができる。さらにこの変化はα受容体とβ受容体の両方を遮断することにより抑制された。心理的ストレスにより,カテコラミンα・β受容体を介して、虚血性心電図変化とともに心臓の部位特異的に、各種の遺伝子発現の変化を引き起こすことが明らかになった。さらにカテコラミンα・β受容体から下流の細胞内情報伝達系と遺伝子発現との関係も検討している。
|