研究概要 |
循環器疾患の発症や増悪には交感神経-副腎髄質系の関与が考えられるが、全身レベルでのカテコールアミンの作用は複雑である。本研究ではまずラットへの拘束(情動)ストレス負荷で、vasospastic angina様の一過性の心電図変化が起こることを見い出した。このモデルを用いて、刺激後数分で新たに転写されるとともにそれ自身転写調節因子として働くimmediate early genes(IEGs)発現を指標に分子形態学的な検討を加えた。その結果、情動ストレス負荷により、冠動脈平滑筋や内皮細胞、左室内腔側の心筋などにIEGsが15分以内に発現した、すなわちこれらの細胞群は反応したことを明らかにした。さらに30分から3時間後に、Heat shock protein70やナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)遺伝子発現が増加することも見い出した。ANPの誘導にはIEGsであるc-fosが関与することを示唆する所見を得た。これら一連の変化は、ストレスに対する心臓の適応現象と考えることができる。さらにこの変化はα受容体とβ受容体の両方を遮断することにより抑制され、血管拡張薬などでは抑制できないことを見い出した。また摘出還流心臓標本を用いた実験で、α受容体あるいはβ受容体の刺激により、全身ストレスと同じパターンのIEGs遺伝子応答があることを確認した。このことは、カテコールアミンが心臓のαあるいはβ受容体を活性化し(虚血や血圧上昇とは独立して)、虚血類似の心電図変化と遺伝子発現の変化を引き起こすこと、αおよびβ受容体下流の細胞内情報伝達系にはcross-talkがあることを示唆している。中でもMAPkinase系がkey stepになる可能性を見い出している。受容体の分布状態と細胞内の情報伝達機序の詳細は現在も検討中である。
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