肥満の是正は通常、カロリー摂取と食塩摂取制限を伴う。肥満の是正による血圧および糖・脂質代謝の改善は心・血管系疾患の発症を予防するが、最近、食塩制限は糖・脂質代謝を悪化させるという報告がある。特に長期の食塩摂取量と血圧および糖・脂質代謝との関連は不明であり、臨床上重要な問題である。そこで本年度の研究では、長期の食塩摂取での血圧および糖・脂質代謝への影響を検討した。対象は少なくとも15年以上食塩摂取量が一定であると思われ、しかも高血圧、糖尿病や高脂血症への治療を受けたことのない140名を対象とした。食塩摂取量は24時間ナトリウム排泄量から推測した。高血圧者は21%であり、耐糖能異常ないし糖尿病者は21%であり、高脂血症者は24%であった。いずれの疾患もない正常者は49%であった。一日食塩摂取量は4グラムから28グラムと広範囲であり、平均の食塩摂取量は12グラムであった。食塩摂取量は平均血圧と有意な正相関を示したが、AUGglu(75g-OGTTでの血糖面積値)、LDL-コレステロール、HDL-コレステロールとの相関はなかった。この相関は、性、年齢、BMI、喫煙、飲酒で補正しても同様であった。すなわち、一日食塩摂取量が長期間一定である集団は、食塩摂取が少ない程、血圧は低値を示し、糖・脂質代謝は食塩摂取に影響を受けないことを示唆している。以上より、肥満者でも一日食塩摂取量の目標を5〜7グラムとするのは血圧、糖・脂質代謝を考慮すれば妥当な値と思われる。
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