研究概要 |
高血圧発症における延髄心血管交感神経中枢の役割を解明するために、「神経根・迷走神経求心線維を含め、延髄から胸髄までの神経系を取り出した摘出脳幹-脊髄標本」という全く新しい実験系を用いて、延髄吻側腹外側領域(RVLM)ニューロンの膜電位の電気生理学的性質を細胞内記録で調べた。従来のスライス法や培養細胞と異なり、中枢交感神経系を統合ネットワークとして扱える系を用いて、パッチクランプで細胞内電位を記録することにより交感神経系の検討を行った研究は、世界にまだない。正常血圧ラット(WKY)と本態性高血圧症のモデルである高血圧自然発症ラット(SHR)を用い、血圧の等しい新生児期と血圧の差が生じる生後8週の、RVLMニューロンの電気生理学的性質を比較した。良好な電位を得たら、current clamp(-100pAから20pAごとに100pA)にて膜電位の変化をwhole cell recordingで記録し、input resistanceなどのパラメータを算出している。 1.これまでに私どもは、RVLM心血管系ニューロンとして(1)規則的に自発発火するregular type、(2)不規則に自発発火するirregular type、(3)静止電位では自発発火しないが、外向き電流を与えることにより活動電位を生じるsilent typeの、少なくとも3種類が存在することを見出した。 2.regular typeのRVLMニューロンは、post synaptic potential(PSP)を示さず、静止電位-45mV、振幅50mVで、4-5Hzという高頻度の規則正しい波形を示し、ペースメーカーニューロンに似ている。一方、irregular typeは発火の間にEPSPやIPSPを多数示し、発火頻度は2Hzであった。 3.パッチピペットに充填したLucifer yellowを神経細胞内に注入し、後に顕微鏡的に形態を検討した。irregular typeは、regular typeに比して大型で樹状突起が多いことから、他のニューロンからの入力を受けやすいと考えられ、形態と電気生理学的性質とが一致した。 4.同側IMLに与えた逆行性刺激(20V,10msec)によりEPSPを示さないで活動電位を生ずる神経細胞(regular、irregular typeとも)があることから、RVLMニューロンの一部(約20%)はシナプスを介さないで直接、下行神経節前線維にaxonを送っていることを見出した。
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