今回の研究はこのPDGF-A鎖mRNAに対するアンチセンスDNAを高血圧症の血管障害の遺伝子治療として確立する事である。 【実験I】in vitroでPDGF-A鎖mRNAに対するアンチセンスオリゴは高血圧自然発症ラット(SHR)由来血管平滑筋細胞(VSMC)の過剰増殖、PDGF-A蛋白発現を抑制したが、WKYのVSMCでは抑制せず、PDGF-A鎖mRNAの発現に影響しなかった事より、アンチセンスオリゴはmRNAにハイブリッドし蛋白への翻訳を障害する事よりこれを抑制したと考えられた。【実験II】in vivoで^<32>Pでラベルしたアンチセンスオリゴは血管に高率に取り込まれた事が認められた。【実験III】SHR及びWKYにphosphoro thioate型アンチセンスオリゴを80ng/g体重/日、28日間皮下投与した。SHRの大動脈の増殖、PDGF-A蛋白発現は著明に抑制された。【実験IV】PDGF-A鎖遺伝子は第6エクソンを含む長鎖と含まない短鎖が生じるが、第6エクソンに相補的なアンチセンスオリゴはSHRのVSMCのDNA生合成を有意に抑制し、SHRのVSMCの過剰増殖にPDGF-A長鎖も関与している可能性が示唆された。【実験V】ラットPDGF-A鎖第6エクソンの塩基配列をサイクルシーケンス法にて決定した。ラットPDGF-A鎖第6エクソンの塩基配列はWKYとSHRで同一で70塩基より成り、ヒト第6エクソンより1塩基長く、8塩基異なっており第6エクソン内に終止コドンを認めた。【実験VI】SHRより心血管系臓器障害の強い脳卒中易発症ラット(SHR-SP)にin vivoで同様にアンチセンスオリゴを投与した。アンチセンスオリゴはSHR-SPの腎臓、大動脈の増殖を有意に抑制した。 以上より、PDGF-A鎖mRNAに対するアンチセンスDNA法は高血圧症の新たな遺伝子治療として有用であると考えられた。
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