研究概要 |
申請者らはAMの病態生理学的意義の解明を目的として、各種の循環器疾患の病態モデルやヒトにおける臨床研究により、以下の研究業績を挙げた。 1.動静脈シャントによるラット心不全モデルを作成し慢性期に血行動態,各臓器重量を測定後、血漿AM濃度,組織中のAM濃度をRIAにて、組織のmRNAをノザンブロット法にて測定した。心不全群でsham群に比し左室,右室心筋重量,左室拡張末期圧は有意に増加し、血漿AM濃度もsham群に比し心不全群で有意に増加し、左室心筋重量と有意に相関した。各臓器のAM濃度は腎臓,副腎で2群に差はないものの、心臓,肺では心不全群で有意に増加し、同部位でmRNAの発現もshamに比し有意に亢進した。以上より血漿AMレベルは、ラット心不全モデルにおいて重症度と比例して増加し、心不全時のAMの由来として心臓,肺の産生の亢進が示唆された。 2.左室拡大,低心機能を有する拡張型心筋症患者を対象に心臓カテーテル検査中に右室ペーシングを施行し、前後で大動脈(AO),冠静脈洞(CS)から採血を行ない、血漿AM,ANP濃度をRIAにて測定した。ペーシング前でCSからの分泌はAOより19%、ANPは602%高かった。ペーシング後、ANPは著増したが、AMに変化はなかった。心不全におけるAMの心臓からの分泌の亢進はヒトおいても確認され、ペーシング20分では心臓から分泌されるAMは有意に変化せず、ANPと異なった分泌機序が推測された。 3.申請者らは、肺高血圧患者において血漿AM濃度が健常者に比し有意に高値であることを以前に報告した。肺高血圧におけるAMの病態生理学的意義を検討するためにモノクロタリンによる肺高血圧ラットモデルを作成し、AMの慢性投与を行ない肺高血圧の予防効果について検討した。AMを慢性投与後の血漿濃度は約2倍であった。AMはこの病態生理学的な範囲内で有意に右室の収縮期圧,右室重量,肺動脈の肥厚を抑制した。以上の結果から肺高血圧時に増加したAMは肺高血圧を抑制する方向に働いているものと推察され、さらにAMが肺高血圧の治療薬となる可能性が示唆された。 4.申請者らは、本態性高血圧患者において血漿AM濃度が健常者に比し有意に高値であることを以前に報告した。本態性高血圧患者におけるAMと左室肥大および頚部大動脈との伸展性との間の関係を検討した。本態性高血圧患者において血中AM濃度は左室肥大群で有意に高値であった。またAM高値群で頚部大動脈との伸展性は有意に低下していた。以上の結果より本態性高血圧患者の増加したAMは左室肥大および頚部大動脈との伸展性を一部反映することが示唆された。
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