重篤な知能障害をひきおこす先天性アミノ酸代謝異常症の代表的な疾患であるフェニルケトン尿症(phenylketonuria:PKU)に対する遺伝子治療法を確立することを自的として、PKUのモデルマウスを用いて検討を行った。ベクターとして、ヒトのフェニルアラニン水酸化酵素(phenylalanine hydroxylase:PAH)のcDNAを組み込んだE1・E3欠失非増殖型組換えアデノウイルスベクターを使用し、以下のような知見を得た。1)遺伝子導入に伴う宿主の免疫反応は、アデノウイルスベクターのみならず、外来遺伝子産物(すなわちヒトPAH蛋白)に対しても惹起されていることが明らかとなった。血清抗体価の上昇はいずれに対しても認められたが、肝細胞に対するCTL反応はむしろPAH蛋白によって引き起こされていることが示唆された。2)免疫反応は、免疫抑制剤FK506の投与によって効果的に抑えることが可能であり、遺伝子導入初期の14日間の投与が重要であった。3)遺伝子治療の効果を最大限に得るためには、PAHの補酵素であるテトラヒドロビオプテリン(BH_4)を投与することが必要であった。4)筋組織を標的とした遺伝子導入によっても、BH_4を補充することにより、血清フェニルアラニン値を正常化することが可能であった。このことは、肝外組織における「異所性遺伝子治療」が、PKUに対して有効であることを示唆しており、今後、PKUに対する遺伝子治療を考える上で重要な所見であると考えられた。
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