研究概要 |
20例の肺高血圧を伴う高肺血流型先天性心疾患患者(年齢3ヶ月〜45歳)の肺生検を心臓手術時、人工心肺施行前に行った。得られた肺組織における肥満細胞キマ-ゼの発現を抗ヒトキマ-ゼ抗体を用いて免疫染色を行った。その際、キマ-ゼ陽性肥満細胞の密度を算出した。また、すべての肥満細胞が有するトリプターゼ(セリンプロテアーゼのひとつ)の発現も連続切片にて検討し、キマ-ゼ陽性細胞の全肥満細胞に対する割合も算出した。Heath-Edwards分類による肺血管形態の変化および心カテーテルによる血行動態データを基にした肺血管病変の進行度とこれら肥満細胞キマ-ゼの発現との関連も検討した。その結果、キマ-ゼは全患者において肺血管周囲および間質に局在する肥満細胞内に顆粒状に発現していた。肺血管の形態変化が大きい程キマ-ゼ陽性肥満細胞の数は増加していた。同時に、肺血管抵抗値とキマ-ゼ陽性細胞数に正の相関が認められ(r=0.51,p<0.02)、肺高血圧との関連が強く示唆された。対照肺のキマ-ゼ陽性肥満細胞数は有意に少なく(p<0.002)、キマ-ゼを有する肥満細胞の比率も有意に低かった(p<0.0002)。現在、キマ-ゼを介したアンギオテンシンIIの作動について検討している。 次に、肺胞マクロファージや肥満細胞のケモカインの発現に関して検討した。IL-8は肺胞マクロファージや血管内皮細胞に発現しているものがみられた。MCAF/MCP-1は肺血管抵抗の低い患者肺の肺胞マクロファージに、MIP-1αは肺血管抵抗の高い患者肺の肺胞マクロファージに発現していた。しかし、肺の肥満細胞にはこれらのケモカインの発現は認めなかった。これらの結果は肺血管病変の進行度により異なったケモカインが作動している可能性を示唆している。
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