研究概要 |
小児てんかんの発症や経過は年齢依存性を示すことが多く、中枢神経系の成熟と密接に関係している。逆に、てんかんに関わる病態が中枢神経系の成熟に何らかの影響を及ぼしていることが推察できる。本研究では、中枢神経系の成熟、特に高次機能の発達を電気生理学的手法(脳波基礎波のパワースペクトル分析,事象関連電位P300)を用いて客観的に評価し、小児てんかんに合併する発達障害の特徴や発現機序およびその対応について検討した。 約150例のてんかん症例において縦断的な検索を行い、正常小児50例と対比した。その結果、1)てんかん症例では、脳波基礎波活動の徐波化およびP300潜時の延長が広範囲に認められ、何らかの高次機能障害が存在することが示唆された。2)障害の程度はてんかん症候群によって明らかに異なり、てんかん原性(てんかん発現に直接関係する病態)と密接に関連することが示唆された。3)また、てんかんの活動性が強い時期に障害は顕著で、発作抑制後に軽快する傾向を認めた。4)発作の直接的な影響は一過性であるが、長期的にみた発作予後と発達障害は相関した。つまり、治療終了に至る例や中止後に再発を認めない例では良好な発達を認めるのに対して、発作持続例ではその発達が不充分であった。5)抗痙攣剤の影響は投与初期に認められるが、慢性投与期間では極めて軽微であった。 小児てんかんでは臨床的に明らかな発達遅滞を認めなくとも、軽微な高次機能の障害が合併することが明らかになり、この発達障害はてんかん病態そのものに起因していることが示唆された。また、発症初期または発作抑制までの期間における療育・教育プログラムが高次機能の発達を考える上で重要であると思われた。
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