研究概要 |
本研究では、大脳皮質形成異常のうち、先天性水頭症及び多小脳回症の発生病理につき、前者ではムンプスウイルス接種により、また後者では低酸素・虚血負荷又は手術的切除により、大脳皮質障害モデル動物を作成し、皮質形成異常の発生機序を検索した。 1) ムンプスウイルスを生後2日目及び30日目のハムスターの脳内に接種すると、生後2日目接種群では、ウイルスは主として脳室周囲の未分化細胞や上衣細胞に感染し、脳室周囲組織の浮腫や上衣細胞の壊死・脱落が起こり、のちに高度な水頭症が惹起された。しかし、30日目接種群ではこのような所見は殆ど見られないか、存在しても軽度であった。2日接種群の脳で、GFAP,lamininn B1鎖抗体、ZO-1等を免疫組織化学的に検索すると、脈絡叢や上衣細胞層におけるtight junctionの破壊が早期から認められたが、30日目接種群では殆ど障害は認められなかった。このことより、脳血管関門や上衣細胞層に於けるtight junctionの破壊がその後の皮質形成異常発生の一因であることが示唆された。 2) 新生仔ラット及びハムスターに低酸素・虚血を負荷することにより、または皮質運動野を手術的に切除することにより作成した一側大脳皮質障害モデルでは、大脳皮質にしばしば瘢痕脳又は多小脳回症様の異常が惹起された。急性期には神経成長因子であるBDNFやbFGFが障害部位周辺や障害関連組織に、一過性に強く発現することが明らかにされた。この結果は、障害部位のみならず、障害部位から離れた関連組織を含めての複雑な修復機構が、形態的には異常とみなされる奇異な組織構築の発生に関与していることを示唆している。
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