1. ビスダイアミンが全胚培養下のラット胚に与える影響 妊娠10.5日のWister系母ラットにビスダイアミン200mgを注入し、その胚をNew(1973)の方法により24時間培養した。その結果、動脈幹分割前のループ形成期に心室腔の拡大と流出路の極端な蛇行が認められ、流出路から心室への逆流がコントロールに比して多くみられた。組織学的には心外膜の一部が欠損していた。 2. ビスダイアミン投与時期を変えることで生じる心血管奇形の形態的な差 (1) 妊娠10日、11日、12日の母ラットにビスダイアミンを投与すると、新生仔において、妊娠10日群では大動脈弓奇形が100%、妊娠11日群で総動脈管症と大動脈奇形が92.8%、妊娠12日群では大動脈奇形とファロー四徴が45.4%にみられた。 (2) 妊娠10日、12日にビスダイアミンを投与した母ラットの胎仔各4匹を1.と同様の方法で培養し、形態と循環動態を観察した。妊娠10日群では神経管閉鎖の遅れが著明で、心管のループ形成や第3、4、6動脈弓の分化は不十分であった。妊娠12日群では、胚全体の成長の遅れ以外明らかな異常は観察されなかった。 (3) 免疫組織学的には、妊娠10日投与群では神経堤周囲のN-CAM分布が粗で、心臓への連続はみられなかった。妊娠11日投与群ではN-CAMは神経堤周囲から心臓まで連続してみられたが、N-CAM陽性細胞の数がコントロールに比して少なかった。妊娠12日投与群ではN-CAM発現パターンにコントロールと差はなかった。 以上より、ビスダイアミンは心臓神経堤細胞や冠静脈洞周囲に存在する間葉細胞の移動に影響を与え、これにより心臓発生(形成)の時期に応じた心血管奇形が生じると考えられた。
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