私達は高比重リポ蛋白(HDL)の抗動脈硬化作用として血液中でのコレステロールエステル(CE)産生調節作用を提唱している。小児に於ては血中HDLレベルはCE産生能と逆相関し、CE産生能は更に低比重リポ蛋白(LDL)粒子サイズと逆相関していた。本年度の研究では低HDL血症患児と虚血性心疾患(CHD)を伴う低HDL血症成人患者のHDL機能及び他の脂質・アポ蛋白レベルを比較し、小児のHDL血症のCHD危険度を総合的に検討した。更に、成人に於ける血中HDLレベルの調節因子であるCE転送蛋白(CETP)の遺伝子異常の頻度及びHDLとの関連を平成9年度に引き続き検討した。その結果、低HDL、血症患児のHDL機能(粒子サイズやCE産生能)は成人のCHDを伴う低HDL血症患者と殆ど差が認められなかった。しかし、CE産生量は成人に比べ小児患児で明らかに亢進していた。この事はCE産生を司るLCAT(lecithin:cholesterol acyltransferase)の基質となるアポB含有リポ蛋白に小児と成人で違いがある事を意味している。CHDの危険因子である低HDL血症を持つ小児ではアポB含有リポ蛋白の変化を防止する事で将来のCHD発症を回避できる可能性が示唆された。CETP遺伝子異常は、最近の報告によればCHDの促進因子とされている。本研究では小児に於ける、CETP遺伝子異常の頻度を調べると共に、HDLとの関連についても検討した。いくつかの遺伝子異常が既にわが国で報告されているが、イントロン14スプライスドナー部位の変異(Intl4A)とエクソン15のミスセンス変異(D442G)の頻度が高く遺伝子異常の90%以上を占めている。そこで、この2つの遺伝子異常について検討した。此れ迄にInt14Aはまだ発見できていないが、D442G変異の頻度は高く、ヘテロ接合体ではあるが7.2%の対象児に認められた。成人と異り、ヘテロ接合体ではHDLレベルは正常児と同程度で高値を示す児は一人も発見できなかった。少なくとも、小児に於てはCETPはHDLの調節因子とは考えられなかった。
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