造血幹細胞遺伝子治療技術の開発・改良には、正確な遺伝子導入効率判定と導入遺伝子のin vivoでの発現の定量的追跡が不可欠である。この目的で、新規細胞マーカーであるgreen fluorescent protein(GFP)遺伝子と治療用遺伝子をもつバイシストロニック・レトロウイルスベクターの有用性を検討した。モデル系として、ヒトCD24抗原遺伝子・脳心筋炎ウイルス由来のinternal ribosome entry site(IRES)配列・改良型GFP(EGFP)遺伝子をもつレトロウイルスベクター(MSCV/CD24-IRES-EGFP)を構築した。Ba/F3細胞への遺伝子導入実験では、CD24・EGFPの発現が6カ月以上安定に持続した。新鮮マウス骨髄細胞については、in vitroにて赤芽球系ならびに顆粒球・単球系造血前駆細胞への遺伝子導入とCD24・EGFPの発現を確認した。さらに、遺伝子導入骨髄細胞で造血系を再構築したマウスにおいて、両導入遺伝子が長期間(6カ月以上)安定して発現することを確認した。6カ月の時点での造血組織・リンパ組織の解析では、調べた全ての血球系列(Bリンパ球、Tリンパ球、赤芽球、顆粒球、単球)の分化は正常で、かつ両遺伝子は良好に発現していた。再構築マウスの骨髄細胞を移植した第二次再構成マウスの血球においても長期(6カ月)にわたりCD24・EGFP両遺伝子の発現が確認され、自己複製能と多分化能をもつ造血幹細胞への遺伝子導入が確認された。続いて、伴性劣性型慢性肉芽腫症(X-CGD)の責任遺伝子であるgp91遺伝子を組み込んだバイシストロニック・ベクター(MSCV/gp91-IRES-EGFP)を用いてX-CGD疾患モデルマウスの骨髄細胞に遺伝子導入を試みたが、導入効率・発現レベルとも不十分であった。オランダ赤十字研究センターのA.Potgens博士より分与されたgp91-IRES-GFPを含むベクターで遺伝子導入した細胞では導入遺伝子の発現が良好だったので、gp91発現を促進するシスエレメントの同定を試みる予定である。
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