研究概要 |
生後12か月以内に発症する乳児白血病の70%に11q23転座、特にt(4;11),t(11;19)が観察される。これら11q23転座症例は治療抵抗性で予後が悪いとされている。この転座責任遺伝子として11q23に局在するMLL遺伝子が単離された。この遺伝子はAT-hook、Znフィンガー領域を持つ転写因子をコードしていることがわかり転座によりZnフィンガー領域のN末端でin frame切断されパートナー遺伝子と融合しキメラ蛋白を作ってくることが明らかになった。このキメラ蛋白が本来のMLL蛋白の機能に何らかの影響を与え、発癌に関与すると考えられる。この遺伝子は14kb-15kbと大きいこと、蛋白も300kDの分子量であることが明らかになり当初計画したMLL遺伝子の全構造の決定はDNAシークエンスを含めさらに長時間必要と考えられる。よってMLL遺伝子の高発現マウスの作製も今後さらに工夫が必要である。MLL抗体の作製は現在進行中である。我々はキメラ蛋白の産生を抑制するアンチセンスオリゴヌクレオチドをMLL-LTG19キメラ転写産物の融合部に対し作成しリポソームを用いt(11;19)を有するKOCL33,KOCL44細胞に遺伝子導入を図った。その結果、いずれも細胞死(アポトーシス)を誘導することに成功した。そしてキメラmRNAの減少を確認した。この所見はキメラmRNA、キメラ蛋白が発癌に関与することを示唆するものであり、現在キメラ蛋白の動態について解析中である。さらに、ヒ素化合物である三酸化ヒ素は、B細胞をアポトーシスに誘導することを認めた。特にMLL遺伝子関連の11q23転座を有する細胞では顕著であった。このアポトーシスの分子機序としてアポトーシス抑制蛋白BCL-2の発現を抑え、カスペース(蛋白分解酵素)の発現を誘導することが我々の研究により明らかになった。
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