研究概要 |
平成9年度は、生前終夜睡眠ポリグラフ(PSG)が施行され、剖検によりLeigh脳症類似の基底核・脳幹病変を示した重症心身障害児剖検脳において、脳幹部でのモノアミン系神経細胞の表出を検討しPSG所見との関係を考察した。症例は2歳男性、生後10カ月から点頭てんかん発作がみられ、寝たきり状態。神経病理学的には、大脳皮質の虚血性病変に加え、Leigh脳症類似の壊死性病変をレンズ核と脳幹被蓋に認めた。PSGにおいては、徐波睡眠出現率とレム睡眠中の体動が軽度減少していたが、Leigh脳症例で異常がみられるレム睡眠出現率やレム睡眠中の急速眼球運動は保たれていた。剖検脳の脳幹では、Leigh脳症例に比しカテコールアミン系神経もセロトニン系神経もよく保たれており、終夜睡眠ポリグラフ所見との相関が示唆された(脳波と筋電図,26巻,1998)。平成10年度には、モノアミン系神経を中心に、点頭てんかんでの脳幹部病変を再評価した。対象は、点頭てんかんでけいれん発作が発症し、その後レノックス症候群に移行、抗けいれん剤内服にもかかわらず強直発作が継続してみられた、滑脳症4例と新生児仮死後遺症4例。滑脳症や新生児仮死後遺症の点頭てんかん既往例では、全例でTyrosine hydroxylase陽性神経細胞が延髄背側迷走神経核で減少し、滑脳症例では、加えて中脳中心灰白質や青斑核でも減少がみられた。Tryptophan hydroxylase陽性神経細胞は比較的保たれていた。脳幹部聴覚伝導路の指標であるParvalbumin染色では、滑脳症例を中心に聴覚伝導路の描出不良がみられた。これらの異常は、新生児仮死後遺症の疾患対照例では認められなかった。さらに、点頭てんかん既往例で三叉神経核のMethionine-Enkephalin染色性が低下していた。今回見出された異常は、点頭てんかんの発症と脳幹部神経系の障害との関連性を示唆するものと考えられた(Epilepsia in press)。
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