皮膚悪性腫瘍、表皮分化異常、脱毛など皮膚科領域の主要な疾患の病因を理解し根元的な治療戦略を構築するためには、発症にいたる過程の細胞学的・分子生物学的機構の解明が必須である。本研究計画は、胎児皮膚の基本的な形態形成過程で発現が変化することを指標にして新たな遺伝子を同定・クローニングし、その機能を多様な培養系で検討して、ヒトのがんや表皮分化異常に起因する皮膚疾病における意義を明らかにしようというものである。 皮膚の形態形成過程が集約的におこる胎生13-16日のマウス皮膚で発現レベルの変化する遺伝子をRNA differential display法によってスクリーニングし、7個の新規遺伝子断片を同定した。それらの遺伝子を順次解析しているが、そのうち幾つかを以下に述べる。 発生の進行と共に発現が亢進する遺伝子の一つである4C32についてcDNA全長を単離し塩基配列を決定したところ、これまで毛のう特異的とされていたkeratin-associated proteinとホモロジーがあることが明らかになった。この遺伝子は、胎児皮膚の最外層、胎児および成体の舌糸状乳頭、成体尾の表皮に発現がみられた。4A40(仮称)は>10Kbの大きな転写物で、分化した表皮に特異的に発現すること、N末のCa結合性EF handドメイン、中央部の反復アミノ酸配列等から、フィラグリン様の構造と機能をもつ新規遺伝子であると推定された。4A50(仮称)も表皮の分化と共に発現が誘導される新規の遺伝子で、既知の機能ドメインは見出せなかった。塩基配列上はヒトのinfertility-related 75 KDa proteinとホモロジーがあり、実際この遺伝子はマウスの精巣でも発現していた。 この他にも、幾つか興味深い発現パターンを示す遺伝子を単離し、現在その構造と機能を解析中である。本研究計画の実行によって、表皮の増殖と分化に関わる遺伝子を単離しうることが明らかとなった。今後、この研究を継続することによって、ヒト疾患との関連を明らかにしたい。
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