研究概要 |
前年度は黒色腫発癌の早期におけるp16遺伝子の関与を明らかにした。今年度は、悪性黒色腫の移転に関与する遺伝子異常を明らかにするために、同一の患者から得られた14組の原発腫瘍およびその転移を対象として、LOH解析,p16遺伝子変異およびp16蛋白の発現を比較検討した。最も高頻度に認められた転移に伴う遺伝子変化はp16蛋白の発現の消失(4/14)であった。p16遺伝子の体細胞変異はすべての腫瘍において認められなかった。LHO解析では6q,7q,8p,9p,9q,11qおよび18qのLHOが検出されたが、ほとんどの症例で原発腫瘍と転移腫瘍のLOHは同一であり、これらの遺伝子変化は転移クローンの出現前の比較的早期に起こるものと考えられた。しかし、1例では転移腫瘍に6qと11qの、他の1例では7qのLOHが新たに認められた。以上の成績から、p16蛋白の発現の消失、6q、11q、および7qのLOHが黒色腫の転移能の獲得に重要な役割を演じていることが示唆された。一方、個々の症例における原発腫瘍と転移腫瘍の遺伝子異常の比較により、原発巣で優勢に増殖しているクローンとは遺伝学的に完全に異なるクローンがリンパ筋転移を形成していた症例が2例、原発腫瘍からリンパ筋転移と皮膚転移が各々独立して発生したと考えられた症例が1例見い出され、in vivoにおける黒色腫細胞のclonal progressionは、直線的な進展モデルでは必ずしも説明できないことが明らかにされた。近い将来、腫瘍の遺伝子解析の成績が個々の症例に対する治療戦略の選択に反映されることが予想されるが、その際には本研究で示されたような黒色腫の極めて異質性に富む性格を十分に配慮する必要があろう。
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