Peptidylarginine deiminase(PAD)はケラチンやフィラグリンのアルギニン残基をシトルリン残基に変換することにより、これらの蛋白の機能を調節しているものと推測されている。今回、表皮細胞の最終分化過程におけるPADの生物学的役割の詳細を解明する目的で、培養角化細胞を用いて細胞内におけるPADの基質蛋白の局在を免疫組織学的に検討した。 まずイオノマイシン処理後のラット表皮細胞における脱イミノ化蛋白の局在を免疫染色により検索した結果、細胞内カルシウムの上昇により、脱イミノ化蛋白が核膜に局在していることが判明した。この核膜脱イミノ化蛋白はイオノマイシン処理前には観察されなかったので、内在性のPADがカルシウム濃度の上昇により活性化され、細胞内に存在する基質蛋白に作用したものと思われる。また、脱イミノ化蛋白の分布は一様ではなく、強拡大像では核を鳥かご状に取り囲むように分布していた。その免疫学的な染色強度は、細胞によって異なっており、一部の細胞は極めて明るく染色されていた。また、この時の細胞質内のケラチン線維は、細胞質内に蜘蛛の巣状に分布しており、特に核周囲に変化は認めなかった。イオノマイシン処理した培養細胞から抽質した細胞骨格成分のイミノブロット像では、核膜に存在すると思われる脱イミノ化蛋白は、約70kDの位置に検出された。 今回の結果をin vivoにおける角化の最終過程に当てはめて考察すると、次の事が考えられる。まず顆粒細胞から角質細胞へ分化する際に、アポトーシスの誘導に伴い、細胞質内のカルシウム濃度が上昇し、種々の酵素の活性化が起こるが、その中の一つがPADであると思われる。PADによりケラチンの中でもK1とK10が優先的に脱イミノ化され、更に核膜に存在する70kD蛋白も脱イミノ化されることが示された。顆粒層から角層へ移行する過程で核の消失が起こる際に、この核膜蛋白の脱イミノ化により核膜の脱重合が起こるものと思われる。
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