研究概要 |
乾癬の病態は炎症性細胞浸潤と共に表皮細胞の異常増殖に特徴づけられる.この増殖は悪性腫瘍のように無制限ではなく一定の表皮構造を保持しており,アポトーシスを含む増殖抑制機構が欠如しているわけではない.乾癬患者皮疹部では増殖因子に加えてアポトーシス抑制シグナルが亢進して表皮肥厚が引き起こされる可能性が考えられる.本研究では乾癬患者皮疹部,無疹部および正常人の生検皮膚を用いて表皮細胞におけるDNA断片化をin situ terminal deoxynucleotidyl transferase (TdT)法にて検出すると共にアポトーシス抑制因子であるBcl-Xの発現を免疫組織学的に検討した.さらに,ビタミンD3(VD3)外用前後の皮疹部における上記パラメーターを比較して治癒機転を考察した.正常皮膚および乾癬無疹部ではTdT反応は表皮全層に散在する少数の表皮細胞が陽性,Bcl-Xは基底層から中層では核周辺に陽性で,表皮上層では弱陽性から陰性であった.一方,乾癬皮疹部ではTdT反応およびBcl-X発現は共に亢進して,表皮全層で陽性を示した.さらにVD3外用4週後のいずれの症例においても使用前と比較してTdT反応は変化なかったが,Bcl-Xは表皮上層での発現低下が認められた.乾癬皮疹部表皮細胞ではBcl-Xの発現が亢進してアポトーシスが抑制されて増殖にバランスが傾いていると考えられた.また,VD3はDNA断片化には影響せず,Bcl-Xの発現の抑制により表皮細胞のアポトーシスを誘導して乾癬皮疹を治癒させる可能性が示唆された.
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