放射線治療において、治療効果を妨げる一因として照射中の再増殖があげられる。再増殖に関して、我々はマウス小腸線窩を対象に、次の実験データを得ている。分割照射中の線窩内のクローン細胞数は速やかに回復し、その程度は一日一回照射群に比して2回照射群の方が大きかった。線窩のポテンシアル倍加時間は、両群とも分割照射開始後に短縮したが、短縮の程度に差はなかった。2回照射群では有意に線窩を構成する細胞数が増加していた。以上の結果から、再増殖の機構として細胞喪失因子を取り上げた。 本年度における本研究の目的は、照射群で線窩あたりの細胞数が増加している原因について細胞喪失因子としての線窩から絨毛への細胞の移行速度と分割照射中のアポトーシスを対象に検討した。 実験はC3Hマウスを用いた。マウスに対してコバルト60による照射を行った。一回線量を2Gy、一日一回と2回照射群に分け照射期間は6日とした。照射開始後4日目に3Hチミジンで標識した。照射は継続し、標識1、2、3日後に屠殺、小腸切片の標本からオートラジオグラムを作成、3Hで標識された細胞が絨毛の基部から絨毛の先端に移動する数を定量的に測定し移行時間とした。また、分割照射中に任意の時期にマウスを屠殺、小腸切片の標本から線窩あたりのアポトーシス数を求めた。 結果は以下の通りであった。1)線窩細胞数は照射により増加した。一日2回照射群では1回照射群より増加した。2)非照射群では、移行速度は一定であった。照射群では照射期間が延長することにより、移行速度は遅延した。とくに、一日2回照射群では著明であった。3)一日2回照射群のアポトーシス数は、1回照射群に比し明らかに増加した。照射による線窩細胞の増加はアポトーシスからは説明不可能であった。移行速度の遅延が関与している可能性が示された。以上の結果より、再増殖の機構における細胞喪失因子の重要性が明らかになった。
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