放射線治療において、治療効果を妨げる一因として分割照射中の再増殖があげられる。この年度内を通して、マウス小腸腺窩を対象に再増殖について次の実験データを得た。なお、分割は1回線量2Gyを照射した。1)分割照射中の腺窩内のクローン細胞数は速やかに回復し、その程度は一日一回照射群に比して2回照射群の方が大きかった。2)腺窩のポテンシアル倍加時間(Tpot)は、両群とも分割照射開始後に短縮したが、短縮の程度に差はなかった。3)1回照射群と比較して2回照射群では有意に腺窩を構成する細胞数が増加していた。4)腺窩から絨毛への移行速度を検討したところ非照射群では移行速度は一定であったが、照射群では照射期間が延長することにより、移行速度は遅延し、一日2回照射群では著明であった。5)一日2回照射群のアポトーシス数は、1回照射群に比し明らかに増加した。 これらの結果をまとめると以下の通りになる。マウス小腸腺窩では分割照射中に再増殖が生じ、一日投与線量に再増殖の程度は依存した。Tpotの短縮と腺窩から絨毛への移行の遅延が観察され、前者では1日投与線量に差はなかったが、後者では一日2回照射の遅延が明らかだった。このように再増殖機構についてTpotと細胞喪失因子の役割、および一日照射線量の関係について明らかにした。これらは、今後順次論文発表する予定である。 これらの基礎データをもとに、臨床データを解析した。1日1回照射と2回照射における正常組織の反応の違いについて検討し一日2回照射の問題点を、さらに再増殖機構に関与する因子である照射期間の延長に関する問題点を報告した。また、再増殖機構に関与が予測される核DNA量についても報告した。治療面から再増殖を抑制する目的での抗がん剤の投与に関する臨床研究、さらに重粒子線による増殖抑制を目的とした基礎研究について報告した。
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