最近、陽子線治療専用の照射設備が建設されつつあり、その施設には陽子線を回転ガントリ-が設置され、短距離で照射野を形成する確立した方法が求められている。2重リング第2散乱体を使った2重散乱体法は、散乱体法としては効率が高く短距離で照射野が形成できる可能性を持つ方法である。この方法をがん治療装置の照射野形成装置に導入する際には解決しなければならない問題が2つある。一つは、がん治療では対象とする患部の深さや奥行き方向の大きさが広範囲にわたるので照射野の深さ調整のためのファインディグレーダ(FD)や拡大ブラッグピーク形成のためのリッジフィルター(RF)のビームラインへの挿入が必要となる。これらは、新たな散乱源となり最適化した分布を歪ませてしまうので挿入機器の散乱を考慮した2重散乱体法の設計が望まれる。本年度の研究では、解析計算および簡易モンテカルロ計算で、2重リング第2散乱体を使った2重散乱体法で、患部の広い深度領域(3-35cm)、SOBP幅範囲(2-10cm)をカバーし、半径10cmの円内での一様領域の照射野の平坦度が±3%p-p以内の領域を形成し、一様領域のフルエンスが全体の30%以上にできる仕組みを提示した。即ち、可変エネルギーの加速器を使い、患部の深度に応じて段階的にエネルギーの異なるビームを引きだして使用する。各エネルギーのビームに対応して4cmのSOBPをつくるRFを挿入したときに照射野の一様性が最も良くなるように散乱体パラメータを最適化する。これにより挿入するRFの範囲、FDの範囲が最も広くとれることがわかった。そして7段階のエネルギー設定と同じ数だけの2重リング、散乱強度を可変にする1次散乱体の組み合わせでこれを実現できることを示した。もう一つの問題であるビームの軸ずれによる分布の歪みの測定を行い、これを測定する平坦度モニターを試験し補正の仕組みを提示した。
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