陽子線によるがん治療に必要な、安定で一様な照射野を形成する方法として、2重リングを用いた2重散乱体法を開発した。この方法は、一様な第一散乱体でビームを拡げた後、2重リング(内側が高原子番号物質で、外側が低原子番号物質で出来ていて、エネルギー損失を一定にして、内側外側での散乱強度を変えたもの)第2散乱体でビームの散乱に空間的な変調をかけ、一定距離走った所で分布の中央部を平坦化するものである。この方法の特徴は、短距離で効率良くビームを平坦化できることである。 この手法を実際の陽子線回転ガントリーの照射野形成装置へ組み込む際に問題となる、他の散乱要素(ファインディグレーダとリッジフィルタ)の影響を定量的に明らかにし、陽子線のエネルギー範囲を8区間に区切ってそれに対応する8種類の2重リング散乱体とそれに対応した可変厚の第一散乱体を用意すれば、広い治療範囲をカバーできることを示した。 また、ビームの位相空間パラメータの照射野への影響を定式化し、(1)ビームのエミッタンスが大きいときは、位相空間パラメータの変化により照射野の平坦度が大きな影響を受けることを示し、(2)位相空間パラメータを考慮した散乱体の設計法について明らかにした。 2重散乱体法は、ビームのミスアライメントに分布の平坦度が敏感でミスアライメントがあると分布に傾きが生じることが分かっている。このため分布の傾きを測る平坦度モニターを開発し、実際に平坦度が1%以下の精度でモニター出来ることを示した。 これらの研究により、2重リングを用いた2重散乱体法を実際のがん治療用の陽子線照射野形成装置に組み込む際の技術的要件を明らかにした。
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