・経口薬剤と内膜肥厚の抑制 経口薬剤と再狭窄との関係については、自作の金属ステントをX線透視下に家兎の腹部大動脈と下大静脈に留置し、これらを2群に分け、1群では経口の抗アレルギー剤であるトラニラストを食餌に混ぜて与え、コントロール群では通常の食餌を与えた。屠殺後、内皮の増殖の程度や欠陥の狭窄率について顕微鏡下に面積測定用ソフトを用いて計測し、2群の差について検討した。下大静脈では、ともに内膜の肥厚や狭窄の程度は軽く、有意差を認めなかったが、腹部大動脈においては、トラニラスト群では、有意に内膜肥厚の程度が軽く、また欠陥自体の狭窄率も低かった。以上より、経口トラニラストの服用で、過剰な反応性の内膜増殖を抑えることにより、金属ステント留置後の再狭窄が防止できる可能性が示唆された。 ・ステントのキトサンコーティング キトサンを1N濃度の酢酸に溶解した液の中に自作の金属ステントを浸し、1Nの水酸化ナトリウムを重合させることにより、金属ステントをキトサンで被覆することには成功した。しかしその被覆は不均一ではがれやすく、実用化には更なるコーティング法の工夫が必要と思われた。 ・各種薬剤の血管内皮機能に与える影響 血管壁の肥厚を抑制する薬剤として、細胞の増殖を阻害する抗癌剤が候補として考えられる。しかしその一方では抗癌剤は正常血管の機能にも悪影響を及ぼすのかもしれない。今回は血管標本のアセチルコリンに対する弛緩反応を観察することにより、抗癌剤の血管内皮に与える影響を検討した。使用した薬剤はファルモルビシン、マイトマイシン、5-FUの3剤で、ファルモルビシンのみ血管内皮機能を低下させていた。マイトマイシン、5-FUは内皮にあまり影響を与えずに血管平滑筋の増殖を抑えうる可能性が示唆された。 以上、局所療法としてステント留置後の再狭窄を防止することにはまだ課題が多いが、経口薬であるトラニラストはその有効性が示唆された。
|