本年は目標を2つ置いて研究を行ったので、それぞれについて以下に報告する。 1 放射線により誘発される培養線維芽細胞のアポトーシス 正常な線維芽細胞(Balb/c3T3)と照射によって生じるDNA2本鎖切断を修復できない細胞(scid)およびがん抑制遺伝子として知られるp53を欠損した細胞(PFT-N)を用いてX線がどのようにアポトーシスを引き起こすかを調べた。その結果、scid細胞が正常細胞に比べて大変アポトーシスを起こしやすいことがわかった。これは、X線の傷としての2本鎖切断が修復できないだけでは説明できず、アポトーシスの過程におけるDNAの断片化にもこの修復系が関与していることを示した興味深いデータである。この結果についてはすでに国際誌に印刷中である。ひき続きDNA鎖切断を起こす他の薬剤ではどうかについて研究が続行されている。また、PFT-N細胞については当初X線によるアポトーシス誘導が減ると予測したが(p53遺伝子はアポトーシスを起こす遺伝子なのでp53を欠損するとアポトーシスが起こりにくくなるため)、予想に反しアポトーシス誘導に変化は見られなかった。来年度以降の基礎データになるので、引き続き実験を行う。 2 マウス皮膚における繊維化 Balb/cマウスの下肢にX線を照射して45-60日後に皮膚組織を取り出し、固定後、通常の染色を施した。現在、組織標本の観察を開始したところでデータは得られていないが、肉眼所見ではX線照射を受けた部位に瘢痕化がみられ、組織の繊維化が生じているものと思われる。来年度は正常マウス以外にscidマウスp53ノックアウトマウスについて同様の実験を開始する予定である。
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