以下に本年度の結果報告をする。 昨年度われわれは放射線により誘発される培養線維芽細胞のアポトーシスについて調べた。その結果、放射線照射によって生じるDNA2本鎖切断を修復できない細胞(scid)が正常細胞に比べて大変アポトーシスを起こしやすいことを報告した。これは、細胞がX線感受性の原因となっている2本鎖切断が修復できないことの他にアポトーシスの過程におけるDNAの断片化にも対抗できないことを示した興味深いデータである。本年度はこれを一歩すすめて、トポイソメラーゼI (トポI)阻害効果をもつ抗がん剤であるSN-38について同様の研究を行った。DNAが複製中に過らせん状態になるのを防ぐのにDNAに一本鎖切断を導入しこれを解消するのがトポIである。SN-38はトポIが切断を入れた状態で反応を止める。この切断部位に複製フォークが到達すると結果として2本鎖切断が形成されるというのがSN-38細胞毒性のモデルである。われわれはSN-38による放射線増感もDNA複製であることを見出した(投稿準備中)が、奇妙なことにアポトーシス誘導に関してはSN-38による2本鎖切断は有効ではなかった。おそらく、SN-38の場合2本鎖切断は形成されるものの、トポIに結合しておりX線の2本鎖切断とは異なる影響をもっているものと思われる。 Balb/cマウスおよびscidマウス下肢にX線を照射して45日後に皮膚組織を取り出し、固定後、通常の染色を施した。組織標本を顕微鏡で見る限りX線修復欠損による高感受性は明らかであった。現在、組織像を詳しく調べている最中でありデータを蓄積する予定である。また、培養系で得られたSN-38の結果に基づき、この抗がん剤による繊維化についても実験を行う予定である。
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