本研究によって得られた結果を以下に示す。培養繊維芽細胞を用いてDNA-PK(DNA2本鎖切断を認識し、他のタンパク質をリン酸化する酵素で、スキッド遺伝子はこの酵素の触媒サブユニットをコードしている)が放射線感受性のみならず、放射線誘発アポトーシス率にも強く関与していることを示した。特記すべき事は、スキッド細胞(DNA-PK欠損)で、放射線感受性は2倍ほどしか増感されないのに、アポトーシス誘発率は7-8倍増加することである。同様に、p53遺伝子はアポトーシス誘導に関与し、この遺伝子のノックアウトによりアポトーシスを起こしにくくなることが報告されている。最近の報告によると、肺繊維症において、繊維化に先行して上皮性細胞にp53遺伝子の発現上昇がみられ、その結果、上皮性細胞の脱落および脱落後の空隙を埋めるように繊維芽細胞への置換が起こるらしい。このことは、繊維症の発症メカニズムを知る上で大変に興味深い知見である。われわれは、スキッド細胞とp53欠損細胞を用いて得られた上述のデータをもとに、スキッドマウスとp53ノックアウトマウスにおいて、放射線がどのようにアポトーシスを誘導し、繊維症へと繋がるのかを、インビボの系で調べようと実験を計画した。両方のマウスにおいて、対照に用いたBalb/cマウスに比べ、はるかに激しい皮膚潰瘍、瘢痕化が起こることを見出した。照射されたBalb/cマウスとスキッドマウスの皮膚の組織像を観察することで、このことを確認した。今後、この系を用いて研究を発展させたいと考えている。TUNEL法などによるアポトーシス誘導の検出やp53遺伝子発現などを調べ、繊維化との関係を研究していく予定である。
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