研究概要 |
Diffusion weighted echo planar imageを用いて算出した水およびアセトンファントムの拡散係数は方向による差はなく,いずれの値も過去の報告と一致した。また、正常ボランティアへの応用では、副鼻腔など骨と空気が近接する領域において画像に歪みが生じ、検討困難な場合もあったが、大部分の大脳領域では拡散計数が算出できた。得られた値は過去の報告と同様で、白質においては神経束と直交方向の値は平行方向に比べ低値を示し、明瞭な拡散異方性を認めた。ファントムおよび正常ボランティアでの検討により、今回用いた手法による拡散計測の信頼性が確認できた。 次に多発性硬化症患者での検討において、78の脱髄斑を認めた。そのうち発生後3ヶ月未満のものは15病巣で,9病巣において造影効果を伴っていた。これらの脱髄斑および,病巣を認めない白質での拡散係数について,その異方性も含め比較検討した。病巣を認めない白質での拡散係数は,正常群と患者群との間で有意差はなく,明瞭な拡散異方向性を認めた。また,脱髄斑での拡散係数は正常白質に比較し高値を示したが,拡散異方性に関しては発生後の期間により異なっていた。すなわち発生後3ヶ月以上の脱髄斑では神経束に直交方向の拡散係数の上昇が大きく,正常白質で認めた拡散異方性が消失していたが,発生後3ヶ月未満の脱髄斑では,拡散異方性は残存したままであった。 拡散異方性の要因としては髄鞘の存在が考えられているが,今回の結果はそのことを支持するものと思われる。これまでに,脱髄斑における拡散異方性に関する検討は報告されておらず,病巣の新旧については造影剤を用いるほかなかった。本研究により,造影剤を用いることなく,脱髄斑の新旧および,髄鞘破壊の程度が評価できる可能性が示されたことは,臨床的にも意義の高いものと思われる。
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