研究概要 |
本年度は,前年度に引き続いて多発性硬化症患者に対して拡散強調画像を応用し,経過観察における本法の有用性と限界について検討した。方法としては前年度と同様に,患者の体軸に関して前後,左右,上下,の3方向それぞれについて,正常白質および病変部における拡散係数の値を求め,病期との相関について解析した。 多発性硬化症患者の脳内における方向別拡散係数の検討では,神経線維に平行な方向では正常と同等であったが,垂直な方向では正常に比し高値を示した。症状経過との関連では,症状の急性増悪期において新たに出現した病巣(急性期病巣)では,方向による差すなわち拡散異方性は残存していたが,以前から存在していた慢性期病巣では拡散異方性は消失していた。急性期病巣の一部には造影効果も認められたが,拡散系数の大きさと造影効果との間に有意な相関はなかった。 神経線維における拡散系数には髄鞘の存在によって方向依存性があるとされており,異方性の存在は髄鞘が完全には破壊されていないことを示している。今回の結果において,急性期病巣での拡散異方性の残存と慢性期病巣での拡散異方性の消失は,急性期から慢性期に至り髄鞘の破壊が徐々に進行している事を示唆する。従って多発性硬化症の経過観察において,拡散係数の検討は病巣の病理学的進行度の評価につながるものと思われた。ただ現時点では病巣の造影効果と拡散係数の間に相関は見られず,造影効果のメカニズムとの関連については今後の検討が必要であろうと思われた。
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