小児の上肢に好発し、しかも見逃されることの少なくない膨隆骨折や鉛管骨折のような変位のない不全骨折について、その見逃しに関わる要素を分析するのが本研究の目的である。その手始めとして、今年度は15歳以下の小児の橈骨遠位部における変位のない不全骨折20例と年齢を対応させたコントロール群20例(外傷により撮影され異常を否定された例)を岩手医科大学放射線科の診断レポートのデータファイルから選び出し、その診断能を変位・変形の程度、読影者の経験、さらに臨床所見の役割について読影実験を行い検討した。読影実験は十分経験のある放射線科医3名(いずれも放射線科専門医)と整形外科医2名(5年以上の経験)を対象とし、臨床情報のない場合とある場合について行った。そして、その結果をROC解析により分析した。変位・変形の程度はいずれも軽度なものであったが、臨床情報が得られない状況ではその程度により診断の正確さが影響された。また、読影者の経験も大きな要素であったが、対象となった読影者については大きな相違はみられなかった。ただし、臨床情報の追加による診断能の向上については経験による相違がみられた。本研究結果は1998年1月の骨軟部放射線研究会で発表し、投稿予定である。現在方法の確立されていない、骨折による変形の定量的評価については、継続して検討する予定である。また、上腕骨顆上骨折をはじめとする肘部の骨折の診断能については次年度に検討する予定である。
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