小児の上肢に好発し、しかも見逃されることの少なくない膨隆骨折や鉛管骨折のような変位のない不全骨折について、その見逃しに関わる要素を分析するのが本研究の目的である。 第1に手関節部を例に、臨床情報の診断に及ぼす影響を検討した。15歳以下の小児の撓骨遠位部における変位のない不全骨折20例と年齢を対応させたコントロール群20例(外傷により撮影され異常を否定された例)を岩手医科大学放射線科の診断レポートのデータファイルから選び出し、読影実験を行った。十分経験のある放射線科医3名(いずれも放射線科専門医)と整形外科医2名(5年以上の経験)を対象とし、臨床情報のない場合とある場合について骨折の有無の程度を評価した。その結果はROC解析により分析した。臨床情報の追加により診断能は有為に向上したが、それは陽性例を正しく診断できたことによるものであった。 第2に肘関節部の骨折の診断と手関節部のそれとの相違の有無を3名の放射線科医の読影により検討した。15歳以下の小児の肘関節の外傷症例のうち、変位の軽度な症例と年齢を一致させたコントロール症例を15症例づつ準備して検討対象とし、経験のある放射線科医による検出能の検討を行った。関節周囲の脂肪層の変位が重要な所見となるのではないかと想像されたが、相違は有意ではなかった。これは変位が極めて軽度な例を対象としたためと推定される。 第3に手関節部の症例を用いて有病率の診断能に及ぼす影響を検討した。最初の検討で用いた例から、有所見例が1/3と2/3の30例の組み合わせを抽出し、3名の放射線科医に読影してもらった。有病率の増加とともに、特異度が増大し感度はやや減少した。 このような知見は読影の誤りを減少させるとともに、臨床医学教育に役立てると考えられる。
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