シグマレセプターは、運動機能や神経伝達物質の調整などの役割を担っており、ジストニ-などの運動異常症や、精神分裂症、痴呆症など中枢性神経疾患との関連が示唆されている。さらに、様々な癌細胞に多く発現し、腫瘍形成や細胞分裂への関与が報告されている。 本研究では、SPECT用脳内シグマレセプター核医学診断薬剤の開発を目的として、これまでの知見とシグマレセプターとの構造活性相関に基づき、種々のピペラジン化合物をドラッグデザインし、合成を行い、シグマレセプターに対し優れた阻害活性を示すヨウ素化合物3-BONを見いだした。 この化合物について、放射性ヨウ素標識を行い、得られた標識体の体内及び脳内での挙動をマウスを用いて観察した。その結果、[125I]3-BONは、投与後早期から標的臓器である脳への高い移行性と集積性を示し、さらに脳内で代謝分解されず安定に保持されていることが確認された。次いで、[125I]3-BONのシグマレセプターに対する結合特異性について、インビトロ、インビボで実験を行った結果、[125I]3-BONは、シグマレセプターに対して特異的かつ可逆的に結合していることが示された。また、オートラジオグラフィー法により、[125I]3-BONのラット脳内での詳細な分布を観察したところ、既報のシグマレセプターの分布と一致した集積が確認された。さらに、[125I]3-BONは、シグマレセプターの密度変化に相関した集積を示したことから、[125I]3-BONを用いて、シグマレセプターの画像化ならびに定量化が可能であると考えられた。 以上の結果から、放射性ヨウ素標識3-BONはSPECT用脳内シグマレセプター機能診断薬剤として優れた性質を示し、放射性ヨウ素標識3-BONにより、シグマレセプター及びシグマレセプター発現性脳腫瘍の核医学画像診断が可能であると考えられた。
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