覚醒剤をラットに反復投与すると、行動効果が次第に増強する。この行動感作という現象は、ヒトが覚醒剤を連用するうちに次第に幻覚妄想を発現する過程に対応し、その類似性から精神分裂病の再発準備性や難治化にも示唆を与える現象である。この現象の成立に関して、環境要因と認知記憶系の関与を視野にいれながら、神経回路網の可塑的変化という観点から研究することが本研究の目的である。 本年度は、昨年度に引き続き覚醒剤行動感作におけるGABA系の関与について検討するとともに、覚醒剤による神経毒性発現におけるGABA系および一酸化窒素(NO)の関与についても検討を進めた。 1) 行動感作の成立をGABA-benzodiazeoine作動薬のclonazepamが抑制し、この抑制効果をbenzodiazeoine受容体拮抗薬のflumazenilが阻止することを示し、clonazepamの作用がGABA-benzodiazeoine受容体を介したものであることを証明し、国際学会にて報告した。 2) 覚醒剤大量集中投与による線条体ドーパミン神経毒性発現をclonazepamが抑制することを示した。またこの抑制をflumazenilが阻止するという予備的な結果を得た。 3) 高用量のNO合成酵素阻害薬は線条体ドーパミン神経毒性発現を抑制するが、低用量では促進的に作用することを示した。 4) また前頭葉においてドーパミン1型受容体を刺激した場合に前頭葉におけるグルタミン酸およびGABAの放出を低下させるこつを、脳内透析を用いて明らかにした。 以上の結果とこれまでの研究結果を勘案すると、覚醒剤の薬理効果にはドーパミン系のみでなく、GABA系、アセチルコリン系およびグルタミン酸系などが関与することを示唆している。
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