われわれはこれまで、慢性のhaloperidol投与によって生じるラット線条体ドパミンD_2受容体数のup-regulationが選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬citalopramの併用投与によって増強され、5-HT_2受容体拮抗薬ritanserinの併用投与によって阻害されることを報告し、非定型抗精神病薬の作用機序として、5-HTの制御が密接に関わっていることを想定してきた。本年度は、このメカニズムを分子生物学的レベルで検討することを目的に、haloperidol(0.1mg/kg)、citalopram(10mg/kg)の急性ならびに慢性投与ラットにおける線条体D_2受容体mRNA量とD_2受容体遺伝子転写速度の測定を行った。 Haloperidol、citalopramそれぞれ単独、あるいは併用の3週間反復投与によって、線条体D_2受容体数、D_2mRNA量、D_2受容体遺伝子転写速度は、それぞれ対照群に比して、有意に増加した。Citalopramは単回投与によっても、2〜4時間後をピークにD_2受容体mRNA量とD_2受容体遺伝子転写速度の有意な増加が観察された。このメカニズムと脳内5-HT濃度との関連を明らかにする目的で、5-hydroxytryptophan(5-HTP)を投与したところ、5-HTP単独あるいは、5-HTPとcitalopram併用のいずれにおいても、同程度のD_2受容体mRNA量の有意な増加が認められた。Citalopramが5-HTPによるD_2受容体mRNA量の増加を増強しないことより、citalopramのD_2受容体遺伝子発現に対する影響は、5-HTを介したものであることが示唆される。
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