研究概要 |
Holzmanら、Fukushimaらにより報告された精神分裂病患者の眼球運動障害に対する前頭眼野、前頭前野の役割をあきらかにし、どのような伝達物質が関与するかを調べるために、平成9年度は以下の実験を行った。ニホンザル2頭にsaccadetask,smooth pursuitさらに前庭入力を加えたVOR suppresion,VOR fixationの訓練を行った。課題を行えるようになった後、記録のためのシリンダーを左右前頭眼野、前頭前野の直上に埋め込み、エルジロイ電極にて前頭眼野の弓状溝とその近傍から、smooth pursuit、また前庭入力に応答する単一ニューロン活動を記録した。Smooth pursuitに応答するニューロンが弓状溝底から多数記録され、多くは眼球速度に対応していた。また、前庭入力も加えた視線速度に応答するニューロンも多数記録された。これらの課題に応答したニューロンの最適方向は、水平、垂直、斜め等あらゆる方向があった。 D1 antagonistのSCH23390(60-120μg),D1 agonistのSKF38393(30μg),5HT antagonistのKetanserin(100μg),GABA agonistであるmuscimol 10-30μgをこれらのニューロンの記録された部位にマイクロシリンジにて注入した。D1 agonistのSKF38393と5HT antagonistのKetanserinでは、眼球運動に変化はなかった。Muscimol注入30分後よりsmooth pursuitの眼球速度が低下し、catch up saccadeの混入が見られ、前回の所見と同様であった。D1 antagonistのSCH23390注入では、視標が正弦波状、ランプ状に動く通常のsmooth pursuitでは明らかな変化はなかったが、視標が一時的に消えるようなblankを入れた課題を行った場合、実際には存在しない視標をイメージしてsmooth pursuitを継続することに障害が見られた。Smooth pursuitのmuscimol注入による障害は、前頭眼野のsmooth pursuitのニューロンの不活化により説明可能であり、D1 antagonistもこれらのニューロンの機能を修飾していると考えられる。これらのsmooth pursuitの障害は精神分裂病患者のsmooth pursuitの障害に類似しており、前頭眼野の障害が考えられる。
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