本研究は、実験的精神分裂病モデルの一つと考えられる精神異常発現薬フェンシクリジン(Phencyclidine;1-(1-Phenylcyclohexyl)piperidine hydrochloride)(以下PCPと略す)投与ラットにおいて、mRNA発現の変動する脳内遺伝子をクローニングし、PCP精神病、さらには、精神分裂病の発症に関与する分子メカニズムを解明することを目的とした。 PCPは、興奮性アミノ酸受容体の一種であるNMDA(N-methyl-D-asparate)型受容体のイオンチャンネルに非競合的な阻害薬として作用することによって、精神病状態を引き起こす可能性が指摘されているが、詳細な機序はいまだ明らかにされていない。我々は、新規タンパク合成を介さない最早期に注目し、diffeyential screening法を用いて、PCP投与後に変動するラット脳内遺伝子cDNAのクローニングを行なった。 その結果、グルタミン酸代謝の中心的な酵素であるglutamate dehydrogenase(GDH)遺伝子がPCPによって発現が誘導されることを見出した。大脳皮質および小脳でGDH mRNAレベルはPCP投与後15分以内に著明に上昇し、蛋白合成阻害剤cycloheximide(CHX)の存在下においても、この現象は観察された。PCPによるc-fos遺伝子の一過性増加に比較して、GDH mRNAの誘導はPCP投与後8日間持続した。 以上の結果から、GDH mRNA誘導がPCP精神病に関与している可能性、およびGDHが精神分裂病患者において脆弱な遺伝子の一つである可能性が示唆された。
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