研究概要 |
ICD-9で定義された崩壊精神病(DP)は、DSM-IVとICD-10の小児期崩壊性障害(CDD)を包括する概念であり、最近その臨床的妥当性が議論されている。CDDと類似性のある有意味語消失を有する自閉症は、これまでの本研究においてCDDとの比較を行ってきた。本年度研究では、世界最大規模の症例数のDPにもとづき、これまで十分に検討されていないDPと有意味語消失のない自閉症との臨床的比較を行った。 DP群28人(男21、女7)に対して1:3の比率で有意味語非消失自閉症(A)群84人を精神遅滞水準(中度・重度遅滞の比率:DP,85.7%;A群,85.7%)および初診時年齢(DP,M=6.8歳、SD=2.4;A群,M=6.8歳,SD=2.4)でマッチングし、非至適性指数(産科的危険因子合計数)、早期発達里程通過月齢,退行前と早幼児期の発達,初診時(退行後)の発達・症状,CARS-TV得点、脳波異常とてんかんの既往を比較した。 両群で、非至適性指数に有意差はなく、退行前の指さしの頻度(DP,60.7%;A,5.9%)と言語水準(2語文あり:DP,42.9%;A,0.0%)は、DP群でA群より有意に高かった。歩行開始月齢に有意差はなく、始語月齢はDP群(M=15.0月,SD=4.7)でA群(M=28.2月,SD=16.9)より有意に早かった。 初診時のCARS-TV総得点では両群で有意差はなかったが、下位尺度では、"不安対応"でDP群(M=2.1,SD=0.6)がA群(M=1.8,SD=0.4)より有意に得点が高かった。"知的機能"では,A群(M=2.3,SD=0.4)がDP群(M=2.0,SD=0.0)より有意に得点が高かった。てんかんと脳波異常の頻度に有意差はなかった。 以上より、発達水準や年齢のつりあった自閉症と比較して、DPは退行前・早幼児期の発達が良好で、有意味語消失後には自閉症状が出現するが、不安反応の高いすなわち分離不安の強い傾向で示されるように情緒的反応性がよりよく、知的機能の偏りが低いことに示されるように、認知機能プロフィールの歪みがより少ない傾向が示され、DPの一定の臨床的妥当性が示唆された。
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